名コーチの最後の言葉
私事で恐縮ですが、1979年、私の最後となったASCA(米国水泳コーチ協会)の年次総会。米国五輪チームの大黒柱、名コーチ、ジョージ・ヘインス(Geroge Haines)の講義最後の一言。
もし、あなたが負けると「考えるなら」あなたは負ける。
もし、あなたが失敗すると「考えるなら」あなたは失敗する。
もし、あなたが勝つと「考えるなら」あたはは勝つ。
「私ならできる」そう考えている人が、結局、勝つのです。
2006年5月没。享年82才。生涯、55名の五輪スイマーを輩出。個人種目、金メダル44個、銀14個、銅10個。五輪最終種目、男子800Mリレー4名全員を自クラブから輩出。それも3回(12年間)。いずれも世界新で優勝させた唯一の名コーチです。「現役の時はツキを失う」との理由で本を書かなかった。1988年、スタフォード大ヘッドコーチで引退。が、生涯、一冊の本も書かずに没した。愛読書の中に“Five Rings by Musashi”(武蔵の五輪書)がある。
世界新は10年間の先取り
泳ぎやすいプールとのこと。絶好調の萩野選手が先陣を切る。抜群のマインドの強さ。男子四百フリー。健闘を祈る。世界新記録とは、10年後の標準記録。時間の先取りです。一人のスイマーが記録の壁を突破すると次々と追随する。「壁」は“タイム”ではなく、実は“マインド”なのだ…と言うことが解ります。
メダルの中のメダル
男子800Mリレー決勝 日本5位 見応えがありましたネ。競泳界では別格の位置づけ。“メダルの中のメダル”と称される特別な種目です。そのワケは、その国の“真水”の実力度を象徴するから。同泳法・同時期にスピート泳者4名揃えるには「個」より「集」の組織力がなければ実現しない。だから、決勝チームは文句なく「水泳一等国」扱いされます。
過去、半世紀、「個」の力に頼ってきた日本水泳界にして見れば、決勝進出は「夢」。それが、メダルに手が届くデットヒートをした。イギリスやドイツと互角に戦えた。大正・昭和の水泳王国へ戻れるかも…。
平泳ぎは古くて新しい
バルセロナでの世界水泳で最もショックを受けたこと…。女子200M平泳ぎ準決勝 リッケ・メラー・ペデルセン(デンマーク)の世界新。平泳ぎは最古で最新の泳ぎ方。かつて、平泳ぎから背泳が…そして、バタフライが…。いつの世も革新的なジャンプは平泳ぎから始まります。30年前、ルーマニアの選手が両肩を水面上に大きく突き上げて呼吸した。常識外れの泳ぎ方。今やそれが常識。そして、旧ソ連の選手が呼吸時、手の平を水面上に挙げてから前方へ突き出す。これも今では常識です。
衝撃的だったことは、ペデルセン選手の手足のタイミングのズレ。私的には“常識外れ”のズレ。手足の“コンビネーション”がほぼゼロ。しかし、見事なストリームライン。このズレの大きさの中に未来の平泳ぎがある。そんな予感がしました。ズレの大きい分、テンポが上がらず、決勝では2位。未完成。だが、まだまだ速くなる泳ぎ方…。革新的なジャンプが始まる。元コーチの「浦島太郎」的な見方ですから、全く当てにならないかも…。でも驚いた。