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団塊世代の消費思考 カギを握るのは誰 <新聞記事>   2012.03.19

40~60代の忙しい主婦から支持を集めるカーブスジャパンのフィットネスクラブ
1947年生まれが65歳に到達する今年、シニアの消費力が再び脚光を浴びている。5年前、団塊世代が60歳に達したのを機に花開くと期待された「リタイア市場」は幻想だった。それでもなお団塊世代に関心が向くのは、この世代が流行への感度と消費意欲を失っていないことをうかがわせるからだ。団塊世代の消費力を見切るのは早計だが、その力を引き出すにはいくつかの誤解を解く必要がある。


■「一点豪華型」が目立つ団塊世代

「普段は倹約しているが、月に1度は高級ホテルのレストランで、友人たちとディナーを楽しむ」(東京都江戸川区の主婦、63)。「昨年見合わせた分を取り返す意味で、最近、立て続けに夫婦でヨーロッパに出かけた。合わせて100万円以上使った」(千葉県船橋市の男性、65)。団塊世代の人に話を聞いていると、「一点豪華」型の消費行動によく出くわす。その背景にあるのは、意外に多いフローの収入だ。60代以上の世帯の家計構造はストックに厚みがあるとみられがちだが、フローの収入でみても、実は20代の平均より水準は高い。資産を取り崩すことなく一時的な出費もまかなう余裕があるわけだ。「今のうちに」という心理も働いている。「海外旅行は健康なうちに」「家計に余裕があるうちにリフォームを」といった具合だ。

■女性がカギを握る日常型の消費

 

ただ、こうした非日常型の消費にとらわれすぎると、07年の「リタイア市場不発」の轍(てつ)を再び踏むことになる。裾野が広いのはむしろ日常性の高い消費だ。団塊世代はある程度のフローの収入を見込めるため、消費意欲をうまく刺激できれば、日常的にお金を使う可能性がある。この観点から見ると、実は女性こそが団塊世代消費のカギを握っている。ニッセイ基礎研究所の久我尚子研究員が指摘するように「リタイアの区切りがない女性は日常生活の延長上に老後の生活がある」からだ。『リタイア・モラトリアム』などの著書がある村田裕之東北大特任教授は非日常的なリタイア市場に期待する姿勢を「男性を主軸にした視点」と指摘、「シニア消費で目を向けるべきは女性だ」と言い切る。

■団塊女性に「リタイア」はない

60代女性は下の世代に比べて正社員で働いた経験者が少ない。ある日を境に会社勤めをやめるわけではなく、ずっと主婦業を継続している。主婦の余暇時間は子供が独立する50代に一度、増えるが、60代になると親の世話、孫の世話といった新しい負担を背負う。つまり、高齢になっても忙しいのだ。この点に目を付けたのが、フィットネスクラブの「カーブス」だ。カーブスといえば、少ない投資で小回りのきく店舗運営に徹するビジネスモデルに焦点が当てられる。しかし、日本進出から6年半で1100店体制に成長、40万人以上の会員を集めた原動力は40代以上の主婦の忙しさに焦点を当てたマーケティング戦略だ。村田氏は「価格政策の工夫もあるが、家近を意識させる立地政策、30分でトレーニングをすませられるメニューの簡便さが支持されている」と説明する。時間消費型とは全く逆のコンビニエンスなサービスに商機が宿る。

■交際費の比率の高さに商機

団塊世代の日常型消費を刺激するもうひとつの視点に、コミュニケーションへの欲求がある。久我氏は団塊女性の生活スタイルの連続性を踏まえて、友人との交流に着目する。家計調査で家計消費支出に占める交際費の比率をみると、50代、60代、70代と年代が進むにつれて上昇する。支出規模が縮小するなかで相対的に、交際が主要な支出項目に浮上するわけだ。今後はこの点に着目したサービスに需要が集まる可能性がある。一例が、ネットを通じた交流サービスだ。団塊世代はパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)などデジタル機器を使いこなす能力を備えている。実際、交流サイト(SNS)機能を備えた「シニアコム.jp」は50歳以上限定で30万人以上もの会員を抱える。このサイトには異性をマッチングするコーナーもある。久我氏は「(現在の会員は)異性とのコミュニケーションや交際にはあまり目を向けないが、単身高齢者が増える今後はニーズが強まる」と予測している。団塊世代の消費が期待ほど盛り上がっていない一因は、非日常的な消費にばかり着目してきた売り手の姿勢にあると見られる。この発想を180度転換して日常生活の範囲で潜在するニーズを探ることが、団塊女性を中心に、シニアの消費力をとらえる糸口になるはずだ。


◆◆◆ 2012.3.6 日本経済 ◆◆◆