介護ビジネス特集――こだわるシニア、フィットネスクラブ、予防に力、健康維持を支援
◇ 日本の介護負担を減らすためには、介護を予防することも大事だ。60代以上のシニア層が会員の中心であるフィットネスクラブ各社は専用の運動プログラムで要介護の進行を防いだり、ノウハウを自治体に提供したりして介護予防に取り組む。近年では他業種との提携でウエアラブル端末などの活用で日常も含めて健康維持を支援する動きも出てきた。
◇ シニアが要支援・要介護になる原因の1つがロコモティブシンドローム(運動器症候群)だ。間接や筋肉などの障害で立ったり歩いたりなど日常の動作がしづらくなり、そのまま寝たきりになってしまうという。◇ フィットネスクラブでは無理のない動きで体を動かして体力を維持するプログラムを提供している。フィットネスクラブ最大手のコナミスポーツクラブが提供する「オイズ」では血圧測定やストレッチ、踏み台を使ってゆっくり昇り降りする簡単な運動を組み合わせている。
◇ セントラルスポーツの「健康イス体操」は椅子に座りながら伸びをしたり足を動かしたりする。マットを使ってできる運動で体に大きな負担をかけずに行える。自治体向けには2日間の体力測定プログラム「元気アップ体操」などを提供。骨密度や認知機能など基本的な体力測定と、自宅でできる簡単な運動などを指導する。介護予防の知識を持った同社の社員が個別カウンセリングも行う。 ティップネスも約140施設で転倒や認知症予防にストレッチや手指を動かす体操と講師が出すじゃんけんの手に反応して体を動かすプログラムを導入している。大阪市立大学との共同研究で運動力や認知力向上の効果を実証した。◇ ルネサンスは他業種との提携で健康維持に取り組む。NTTドコモと提携し、同社子会社のドコモ・ヘルスケア(東京・渋谷)のリストバンド型端末「ムーヴバンド」を活用する。 歩数や移動距離、消費カロリーなどを記録できる端末と、フィットネスクラブ内での運動をスマートフォン(スマホ)に保存するサービスと組み合わせて運動の記録を管理する。施設がない場所に住む顧客も日常の運動の助言がもらえる。
◇ 日本人の平均寿命は2014年に女性86・83歳、男性80・50歳と過去最高を更新した。ただ、健康上の問題で日常生活が制限されない「健康寿命」は13年で女性が74・21歳、男性が71・19歳と平均寿命と10歳程度の差がある。要支援・要介護の認定を受けた人は15年3月末時点で600万人を超えるなど増加を続けており、シニアの自立した生活を支援するサービスの需要が今後も高まりそうだ。
◆◆◆2016.3.28 日経MJ◆◆◆
フィットネス、予防医療に軸足、高齢者需要を開拓、医師と連携、新サービス。
フィットネスクラブが医療機関と連携したサービスを相次ぎ始める。教育事業などを手掛けるポリゴンマジック(東京・港)は医療法人と共同で、医師による健康チェックが受けられるクラブの展開に乗り出す。高齢者の足腰を鍛えるプログラムを、医師のアドバイス付きで提供するサービスも始まる。フィットネスクラブは会員数が伸び悩んでおり、予防医療につながるサービスで高齢者などの需要を掘り起こす。
ポリゴンマジックは5月をめどに、医師が定期的に待機して利用者に健康アドバイスをするフィットネスクラブを東京都内に開業する。血液検査や3Dスキャナーを使って身体測定ができる設備を設け、運動と健康チェックを同じ施設内でできるようにする。
都内4カ所で診療所を運営する医療法人社団ナイズ(東京・渋谷)と共同で新会社「メディカルフィットネスラボラトリー(MFL)」を立ち上げて始める。年内にはナイズが運営する診療所の電子カルテと運動履歴を連携させ、より多角的に利用者の健康管理ができるようにする。利用料は月額3万5000円程度を見込む。3~4年で10カ所程度まで増やす。
フィットネスクラブ向けに運営コンサルティング事業を手掛けるパワーウェルネス・ジャパン(東京・新宿)は2月末にも、医師の指示に基づいて足腰の筋力を鍛える高齢者向けプログラムの販売を始める。3年間で20件のフィットネスクラブからの受注を目指す。
骨粗しょう症などにより歩行障害などがおこるロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防のための3カ月コースだ。高齢者はけがのリスクが高いため、医師のアドバイスに基づいてプログラムを組む。
日本生産性本部(東京・渋谷)によると、2013年の国内フィットネスクラブ市場は前年比3%増の4240億円。リーマン・ショック後は伸び悩み傾向が続いている。一方で国民医療費が40兆円に迫る中、国は生活習慣病などを未然に防ぐ予防医療に力を入れている。各社はこうした機運を追い風に、新しいサービスで会員の獲得を目指す。
健康コーポレーション傘下のライザップ(東京・新宿)は、医療機関が入る建物にフィットネスクラブを開設する新ブランド「ライザップ メディカル」の1号店を北九州市に開いた。
大手では、最大手のコナミスポーツ&ライフが認知機能の低下予防プログラムを始めた。セントラルスポーツは昨年12月、千葉大学医学部付属病院と包括連携協定を結んだ。糖尿病などの患者に向けて、退院後の運動プログラムを共同開発していく。
■認知症予防プログラム、トスコ・筑波大、開発へ。
介護予防事業を展開するトスコ(静岡市)は筑波大学と共同で認知症予防プログラムの開発を始めた。脳を活性化させる軽度の運動トレーニングを組み合わせ、高齢者が気軽に楽しめるメニューを作成。認知症の人が急増するなか、独自プログラムで事業を拡大する。1年半から2年後の実用化を目指す。
石油製品卸などを手掛けるトスコは6年前、介護予防の通所施設「元気広場」の運営を子会社で始めた。介護支援が必要な度合いが比較的低い高齢者らが対象。理学療法士の資格を持つスタッフの指導の下、フィットネスクラブ感覚でトレーニング機材を使った運動プログラムをこなす。現在静岡県内に8つの直営店があり、フランチャイズチェーン(FC)店は8都県で計14。利用者は双方合わせて約1500人おり、近く浜松市でFC店が開業する。
認知症予防の運動プログラム開発は筑波大学体育系の大蔵倫博・准教授(体育科学)と共同で昨年末に開始。静岡市内の直営店に通う約80人の高齢者の協力を得て、現行の運動プログラムをこなす前後の健康状態などを測定。1年ほど継続的にデータを集め分析する。
現行プログラムの1つ「スクエアステップ」は足踏みしながらパターン通りに四角いマス目をステップする。「頭と体を同時に使う動きが体力作りだけでなく、認知機能の維持や改善につなげる効果を期待できる」(竹内豪一社長)といい、全店に導入済み。新プログラム開発に伴うデータ測定はスクエアステップの有効性を本格的に検証する作業を兼ねる。スクエアステップは全国各地に普及しており、検証結果の公表で認知症予防の研究に役立てたい考えだ。
■顧客のホンネ把握するには――ルネサンス
フィットネスクラブ大手ルネサンスでは体験後の入会時、各施設の従業員が直接「なぜフィットネスクラブか」「なぜルネサンスを選んだか」を尋ねる。営業企画部の平野晃浩副部長(38)は「最初に対面で問いかけると信頼関係を築きやすく、本当のことを言ってもらいやすい」と語る。普段の運動習慣や過去のフィットネス歴などの雑談で相手を和ませ、入会目的の本音を引き出す。結果は施設ごとにまとめて、チラシでの販促に生かす。
既存会員向けには「あなたはこのフィットネスクラブを大切な人に紹介したいか」という質問に10点満点で答えてもらう。トレーナーやフロントスタッフなどの「人」、指導内容などの「ソフト」、施設の充実度や混雑状況といった「ハード」の7項目を評価してもらう。結果は各施設内で改善点を話し合う。約5年前に子供向け水泳スクールの満足度を分析した際、保護者からはプログラムより水回りの清潔さが評価されていることがわかった。平野さんは「単に『あなたの理想のサービスは何ですか』と聞いても顧客には答えられない。常に仮説を持って具体的に質問する」よう心掛けている。
■ルネサンス、ベトナムにプール付き施設
フィットネスクラブ大手のルネサンスは26日、ベトナムで初めてプール付きの大型施設を開くと発表した。今秋にもハノイ市内の大型ショッピングセンター(SC)内に設ける。同国での直営店は昨年11月以来、2店舗目の開業となる。トレーニングジムやスタジオのほか、7コースの25メートルプールを設ける。日本式の水泳教室も提供するという。延べ床面積は4400平方メートル。